最初の五分で「謝って済む問題」に持ち込む!

☆最初からクレーマー扱いするな
クレームが寄せられたら、その内容がどのようなものであっても、まずは「お客様の正当な要求」として、スピーディに対応することが重要です。
しかし、突発的なトラブルに遭遇すると、対応を誤ることがあります。

ホームセンターの事例


ホームセンターで高齢の女性が転倒した。それに気がついた店員がかけ寄り、
「大丈夫ですか?」と声をかけると、「ええ、大丈夫」と小声で答え、しばらくすると立ち上がって歩き出した。店員は、その後ろ姿を見送った。ところが翌日、中年男性が店に怒鳴り込んできた。
「昨日、ここのフロアが水で濡れていて、母がすべって転んで骨折した。それなのに、何もしてくれなかった。 いったいどういうことだ! 責任者を呼べ!」
この店の店長は、日頃から恐喝まがいのクレーマーに悩まされていた。女性が転倒したときの様子を店員から聞いて「またか!」と舌打ちした。そして、事務室で男性と面談し、きっぱりとこう言い切った。 お母様には、スタッフが声をおかけしており、お元気そうでした。また、ご来店の時間に、フロアが濡れていたということはありえません。しかし、実際は違っていた。店長の言葉で男性が激高したため、あらためてスタッフ全員から聞き取りしたところ、店員が女性に声をかける直前、清掃係がフロアの水を拭き取っていたと判明したのである。何かの拍子で、バケツの水をこ
ぼしたようだった。店長の思い違いでこじれてしまい、会社としての正式な謝罪や治療費の負担などで、決着するまでに数か月を要した。このケースは、店長が日頃クレーム対応に悩まされていたために、最初からクレーマーだと決めつけたことが、事態を悪化させてしまった典型です。最初からお客様をクレーマー扱いすれば、反感を買うだけでなく、「クレーマー扱いしやがって!」「なにか言ったらクレーマー扱いなの?」というお客様のさらなる不満を生み、対応を自ら長期化させることになりかねません。クレーム発生直後の段階では、相手のお客様が「ホワイト」なのか「グレー」なのか「ブラック」なのかはわかりません。顧客満足をベースにした「性善説」でスタートするべきです。また、強面のお客様に対して、「近寄らないで」というオーラを出して、失敗するケースも少なくありません。見た目や態度でクレーマーと決めつけ、相手を怒らせてしまうのです。ある病院で、こんな事例がありました。

病院の事例

眼光鋭い初老の男性が病院の診察室に入ってきた。派手な服装で、見るからに柄の悪そうな風体だ。医師は「ヤクザかもしれない」と思った。「どうされましたか?」と医師が尋ねると、「寒気がする。のども痛い。この前も来たが、全然よくならない。ちゃんと診てくれてるのか?」と訴える。医師は、すぐに男性にシャツを脱ぐように指示して、聴診器を胸にあてようとした。しかし、そこで医師と看護師が目にしたのは、色あざやかな入れ墨。診察室に緊張が走る。医師は「もしかして、イチャモンをつけに来たんじゃないか?」と不安にかられ、声を震わせて言った。「熱もないようなので、しばらく安静にしてください」看護師も身体をこわばらせている。それを見た男性は、野太い声を診察室に響かせた。「オレには、何もしてくれないってことか!」ヤクザだからといって、診療を拒否することはできません。不規則な食事や過度の飲酒、縄張り争いや絶対的な上下関係という生活環境のもとで、健康を害しているヤクザはたくさんいます。

小さなクリニックの事例

関西地区の小さなクリニック。院長先生とベテラン看護師の二人三脚で診療を行っている。ある日、暴力団関係者と思しき患者が「風邪をひいた」と言って来院した。院長はひと通り診察を終えると、看護師に注射をするよう指示。看護師がそそくさと思者の腕をまくり上げると、唐草模様の彫り物が姿をあらわした。すると、看護師は「ごっつう立派な刺青! すごく痛かったでしょ!」と声を上げ、「強いんやね」とジョークを飛ばした。患者は看護師のほうに目をやって、「大したことあらへん」と一言。ニヤとして、素直に腕を差し出した。この看護師は、経験豊富なベテランでした。このようにジョークを飛ばす必要はまったくありませんが、むやみに相手を怖がると、かえってリスクを招き寄せることは、ぜひ覚えておいてください。


☆要求をクレーム化させない「ひと言の気遣い」


クレームの初期対応では、相手に対して親身な姿勢を崩さないのが大原則です。そのためには、「目配り」が必要不可欠です。

総合病院の事例

「突然、激しい頭痛に襲われた」と、中年男性が総合病院の救急外来を訪れた。ところが、その日の救急外来は、いつにも増して慌ただしかった。男性はこめかみに手をやりながら、受付の職員に「まだですか?」と何度も尋ねるが、「順番にお呼びしますので、もう少しお待ちください」と事務的な返答を繰り返した。男性が診察室に案内されたのは、来院してから1時間以上経ってからだった。「いつまで待たせるんだ!」男性は、思わず看護師に向かって声を荒げたが、ともかく痛みをこらえながら医師を待った。しばらくして、若い医師がやってきて診察を始めた。医師は、パソコン画面の電子カルテに視線を向けたまま、患者と目も合わせず、ものの10分もしないうちに、「慢性頭痛ですね。念のために、CT検査を受けてください」と診断を下し、電子カルテに症状と処方を記録した。手際よく診察を終えた医師は、ホッとひと息ついた。ところが、男性は険しい表情で医師を問いつめた。「ちゃんと診察したのか? きちんと説明しろ!」「病院での待ち時間」は、患者の不満で最上位にランキングされています。このケースでも、『まだですか?」というセリフから男性の苛立ちがわかります。しかし、男性の怒りが爆発したのはその後です。長時間待たされたのに、わずか数分間で診察が終わったことに釈然としなかった部分もあったのでしょう。しかし、それ以上に、医師がパソコンに視線を向けたまま、患者と目を合わせなかった事が不信感をからです。もし、医師が「一時間以上もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」とひと声かけていれば、男性がここまで激高することはなかったはずです。このように、「初期段階での少しの気遣い」が足りなかったために、クレーム対応が長期化するケースは、さまざまな場面で見受けられます。

鉄道会社の予約窓口で、女性が2人分の切符を購入しようとしていた。列車の発車時刻が迫っていたので、早口でまくし立てた。「急いでください! トイレの近くの座席で」駅員は、トイレから少し離れてはいたが、時間を優先してすばやく 2人分の座席をブッキングして切符を手渡した。
ところが、それを見た女性客は金切り声を上げた。「そんな座席じゃダメ! トイレの近くでって言ったでしょ!」駅員は、どうして、そんなに怒るのだろうかとあっけにとられたが、女性の後
方に車椅子が見えた。女性は、老親の介助ができる多目的トイレに近い座席を希望していたのである。介護疲れで、窓口では十分な説明ができなかったのだ。クレーマーとはい切れないまでも、独りよがりな言い分で当者を困らせるお客様は大勢います。この女性もそのひとりだと言えるかもしれません。しかし、お客様をモンスター化させないためには、「なぜ、怒っているのか?」「本当は何を求めているのか?」ということに思いをめぐらせ、心情に寄り添う姿勢を見せることが、要求」を「クレーム」に発展させないことにつながります。たとえば、食品への異物混入を訴えるお客様に対しては、その事実を確認する前に、まずは体調を悪くされませんでしたでしょうか?」と、相手の健康を気遣う姿勢を見せることが必要でしょう。あるいは、注文した商品が破損していることに腹を立てているお客様に対しては、商品を交換すればよいと考えるのではなく、「せっかく当社の商品をお買い上げいただいたのに、申し訳ございません」と、期待を裏切ってしまったことに対してお詫びしたり、「ケガなどはなさいませんでしたでしょうか?」と商品の破損によるケガや周囲の汚損に気を配ったりする必要があるでしょう。

クレームの悪質性を測る、三点ピンポイントお詫び法

クレーム対応は、まず「お詫びのひと言」がなければ、何も始まりません。相手の言い分にどうしても納得がいかないとき、「なぜ、自分が謝らなければならないのか?」と反発したくなる気持ちはわかります。また、謝罪することに抵抗感がある職種もあります。たとえば、医療現場では、医療過誤の申し立てを警戒して、患者やその家族への謝罪をためらう傾向があります。あるいは、外資系企業では、損害賠償責任の追及を恐れるあまり、謝罪に二の足を踏むことも多いようです。たしかに、「事実関係がはっきりしない段階でお詫びする必要はない」という考え方には一理あります。しかし、少なくとも日本国内においては、お詫びの言葉を使わないでクレームを収束させることはほぼ不可能です。「いったん謝罪すると、過失を認めたことになるので、安易にお詫びしてはいけない」という奪え方は、クレームを長期化させるだけです。ただし、お詫びするにあたっては、理論武装が必要です。非を認める正式な謝罪と、相手のぶりを鎮めてクレームを長期化させないためのお詫びを区別するのです。具体的には、次のように、3つの観点からピンポイントにお詫びします。
1、相手に与えてしまった「不快感」に対してお詫びする
→「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」
2、相手が感じている「不満」に対してお詫びする
→ 「ご不便(ご迷惑)をおかけして、申し訳ございません」
3、こちらの「手際の悪さ」に対してお詫びする
→「お手間をとらせてしまい、申し訳ございません」
このような限定的なお詫びであれば、「謝ったんだから、責任をとれ!」と詰め寄られたとしても、「私どもの過失を認めて補償するという意味ではございません」と、切り返すととができます。言葉尻をとらえて「謝っているんだから、悪いと思ってるんだろ! だったら誠意を見せろ」などと強引に補償を求める相手は、悪質性が高いと判断してよいでしょう。要するに、初期対応でのお詫びは、相手の怒りをクールダウンさせるツールであると同時に、クレームのレベル(悪質性)を測るバロメーターにもなるのです。初期対応では、お詫びとともに、「共感・傾聴」の姿勢を示すことが重要です。相手に共感を示すには、「あいづち」が効果的です。また、傾聴とは相手の話を聞き流すのではなく、じっくり相手の主張に耳を傾けることです。途中で相手の話の腰を折ったり、反論したりするのは厳禁。「言い訳がましい説明で逃げようとすると、相手は「言いくるめられてたまるか」と反感をもち、さらなる怒りを買うことになります。

飲食チェーンの事例

飲食店チェーンのお客様相談室に、中年女性からクレームが入った。「店員の態度がなってない! オタクはどんな従業員教育をしてるんですか!」担当者は「ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません」とお詫びしたうえで、そのときの様子を尋ねると、女性は一気に不満をぶちまけた。「言葉づかいが悪い」「オーダーを間違える」「仕事中に同僚とおしゃべりをしている」「服装がだらしない」などと厳しい言葉が続く。その間、担当者は「さようでございますか」「おっしゃるとおりです」「ごもっともです」とあいづちを打ちながら、相手の話にじっと耳を傾けた。そして、女性がすべて話し終えるのを待って、再度お詫びの言葉を述べた。「このたびは申し訳ございませんでした。これを契機に、従業員教育を徹底させてまいります」女性は怒りが収まった様子で、穏やかに電話を切った。初期対応では、こちらから細かく質問したり、中途半端な説明をしたりする必要はありません。まずは、相手の気持ちを受け止めることが重要です。このケースでも、仮に店員の肩をもって釈明したとしても、「言った、言わない」「やった、やらない」の水掛け論になることがほとんどです。

☆「5分間」我慢すれば8割解決

ところが、不用意な一言で相手をヒートアップさせてしまうケースが後を絶ちません。その代表的なフレーズが、「ですから」「だって」「でも」の3つです。私は、これらを「D言葉」と名づけ、クレーム対応では絶対に封印するように、クライアント業方々にお伝えしています。D言葉は、相手の話が的外れだったり、話が堂々巡りになったりすると、つい口にしてしまう言葉です。しかし、相手には「上から目線」「逃げ腰」、あるいは「反抗的」といった印象を与え、クレームを長期化させてしまうのです。私の知るコールセンターには、元声優の優秀なオペレーターがいました。彼女は相手の怒鳴り声にもひるまず、「それは失礼いたしました」「そうだったんですか」「ご不快な思いをされたことでしょう」などとあいづちを打ちながら言葉をつなぎ、相手からは見えなくても、深々と頭を下げています。すると、やがて相手の怒りは収まります。電話がかかってきてから、約5分間の出来事です。私の経験でも、悪意をもったクレーマーでない限り、「最初の5分間」を演じ切ることで8割方「謝って済む問題」に持ち込めるというのが実感です。心理学的にも、人は、共感を示しながらお詫びする人に対して、いつまでも怒鳴り散らしていられる。
消火活動で、火の手が大きくならないうちに備えつけの消火器で「初期消火」するように、クレーム対応でも、網期対応が非常に重要なのです。